2010年01月16日

震災から15年、頑張れ が痛い時・・・

 しばらく厳しかった寒さもようやく緩んで、柔らかい
朝の陽の光が部屋の奥まで射し込んでいます。加湿器の
湯気が、射し込む朝日の中に揺れる様子を見ていると
心が鎮まります。

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 休みの日の朝には、ゆったりとチェンバロの曲を聴くのが
好きで、今はバッハのフランス組曲を聴きながら机に向かって
います。

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 今朝のNHKラジオ、深夜便の最後の「こころの時代」
は、15年前に震災で、隣に寝ていた1歳6ヶ月の息子を
亡くした上仲まさみの「大志よ!」でした。
 1階で寝ていて、地震で2階の下敷きになって身動きが
とれなくなり、1時間後には上のお子さんが救助され、
そしてかすかに動く足で探った息子の身体が冷たくなって
いくのを感じながら5時間後に救助されたそうです。

 いろいろな想いを語る中で、「頑張れ」という言葉を
掛けられるのがつらかったという感想に、自分自身の
思いが重なりました。私もあの時、「頑張れ」という
言葉が痛かったのを思い出しました。

 時と場合、状況によっては、「頑張れ」と言う言葉が
ひじょうに残酷に、相手の心を傷つけることがあることに
気付かずに、悩んでいる人、悲しみの中に沈んでいる人に
対しても(語弊があるかもしれませんが)気軽な
気持ちや、お手軽に、とりあえず口にする言葉で、無難な
言葉だと思われている言葉・・・。
 私は震災以降、「頑張れ」を口にすることが少なく
なりました。



 漱石は、娘ひな子を突然亡くしています。明治44年
11月29日の日記に、その時の様子が詳しく書かれて
おり、翌11月30日と12月1日の日記は短いのですが、
ひな子の葬式があった12月2日の日記は、ちょっと長く
なって、12月3日は、火葬場の描写を含めて長い日記
になっています。その中で・・・

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 昨日は葬式今日は骨上げ、明後日は納骨明日はもし
 するとすれば待夜である。多忙である。然し凡ての
 努力をした後で考へると凡ての努力が無益の努力で
 ある。死を生に変化させる努力でなければ凡てが
 無益である。こんな遺恨な事はない。・・・

  また子供を作れば同じぢやないかと云ふ人がある。
 ひな子と同じ様な子が生まれても遺恨は同じ事で
 あろう。愛はパーソナルなものである。・・・



 上仲まさみさんが瓦礫になった自宅から骨折して
助け出され、大阪の病院で手術後に芦屋の病院に
入院していた時に、朝日新聞に投書して「ひととき」欄に
掲載された文章です。

  私の息子の名前は上仲大志(うえなかたいし)と
 いいます。1993年7月15日、西宮の助産院で
 生まれてきた彼の第一声は超ハスキーボイス。おなかの
 中からまだ出たくないぞーってわめきながら産道を
 通って来たので声がかすれたのよ、なんて私や助産婦
 さんの笑いを誘った。
  そっと開けた彼の小さな手のひらに、「百握りの
 手相」といって強運を授かっているのよと教えられ、
 心からうれしくなりました。
  一生懸命パクパクとお乳に張りつ いてくる彼が、
 けなげでいとおしく、一人の人間を丸ごと預かっている
 重大さと幸せを同時に感じ、今までにない充足感を
 経験しました。日増しにかわいらしさを募らせる彼との
 生活は驚きと感動の連続でした。
  見知らぬ人が足を止めて声をかける時、彼はいつも
 満面微笑でこたえていました。声をかけた人の表情も
 穏やかに幸福そうにゆるんでいくのです。なんて
 すてきな力を身につけているのだろうと思いました。
 素朴で純真。 私にとって、とびきり上等の息子でした。
  でも、その息子はいない。1995年1月17 日、
 息子は私を残して多くの人といっしょに逝ってしまい
 ました。わずか1年6ヶ月の人生をあっという間に
 駆け抜けていった息子。私と周囲の者の心にポッと
 温かい灯をつ けて……。
  どうぞお願いです。これを読んで下さった方に。
 上仲大志という幼い命がこの世にあったことを、
 ほんの少しでもいい、思って下さい。短い命を一生懸命に
 生きた彼のことを、今の一時でもいい、その名前を
 口にして心に思って下さい。どうぞ、お 願いします。

  (神戸市上仲まさみ 主婦33歳)入院先の病院から
  お便りいただきました。

 上仲まさみさんは、震災直後はラジオで犠牲者の名前が
読み上げられていたのが、だんだん犠牲者の数が増えて
名前が読み上げられなくなってしまって、犠牲者の人数
だけになって、その数が多くなっていくことに、悲しみを
感じたそうです。
 私の息子のいのちが、数百分の一になり、数千分の一
になってしまいそうで・・・と感じたそうです。

 「頑張れ」という言葉を掛けられるのが辛くて、嫌だった
のが、その時期だったようです。

 上仲まさみさんは、その後、童話を書くようになり、
「ゴムの手の転校生」(第5回ほたる賞受賞)、そして
「明かりの向こう側 」(第9回小川未明文学賞優秀賞受賞)
があります。図書館で探して、手に取りたいなあ〜と
思っています。
posted by student at 08:00| 日記